『シューマンの指』奥泉光
二度目になるが、私はあまりミステリを読まない。この本も祖父の遺品だ。
タイトルからして音楽小説かなと思っていたが、大当たりだった。
正直ミステリ要素より音楽要素、そしてさらに純文学のような要素が大きい。
シューマンについてや音楽についてはあまり詳しくないためほぼ流し読みのような形になってしまったが、知識のある方はうなずきながら読めるのだろうか。
情報無しで初めて読んだとき、私はこれをミステリ小説だとは思っていなかった。確かに謎解き要素がない、ことはない、かもしれないが。
それはミステリを読むときの「ふーん」という感情が湧いてこなかったからだと思う。
とすると、ストーリーの流れよりも描写の方に目がいっていたということにもなる。
つまり私はこの本で「表現を読む」読書をしていたのだ。私の好む読書方法である。
ストーリーももちろん魅力的だったがやはり私は文章のニュアンス、表現が特に優れていると感じた。美しい描写の仕方。人物の心情を切実に表す表現。これがこの本はすごく綺麗だった。
さらにミステリらしく、最後の展開があまりにも衝撃的。王道とは言い難い気がしたが、私の好みピッタリの本であったと思う。
さて、ミステリ好きの祖父はこの本をどう評価したのだろうか。私がこの本を高評価したのは、「ミステリ」というジャンルだと知らなかったからというのもあるだろう。
この本について調べてみると青春小説やら心理フィクションやら色々なジャンルが出てきた。個人的にはミステリよりもこれらのジャンルの方がしっくりくる。
本は一つのジャンルでは語れないものだな、と思う。それを読んだ人次第とも言えるか。
そう考えるとやはり本というのは素晴らしい。自分の思考が物語に大きく関わってくる。
この本のラストをどう解釈するか、そしてそれをどう感じるか。それはすべて私次第なのだ。
そして今日もまた本の中へ潜る。私だけの結末を探るために。