『潮騒』三島由紀夫
純粋な愛と恋。そんなものが存在するのか。
この本には極めて純粋な恋物語が存在するのだが、それとともにどこか官能、というか、ただ純粋ではない雰囲気も感じられる。
物語のところどころで性的描写のようなものがありはするのだが決して発展しない。
最近の少女漫画やライトノベルとは大違いな純粋さ(これ以上言うと怒られそう)である。
島の中で繰り広げられる恋物語なのだが、この住民は島の美しさを信じているとか、方言とか、とにかく外からはほとんど隔絶された場所らしい。
なんというかこの本は理想と妄想の塊のようにも思うのだ。
のどかな島の中で、男女が健全な交際を保っている。何にも負けることなく、二人は愛を貫く。
まあそれはいいのだが、そんなものが実際に存在するのかというのは……まあ言うまでもないかもしれない。数少なそうなケースだ。
彼らの恋愛模様についてはあれだが、周囲の人々の行動はわりと一般的でよくあるもののように思う。噂をしたり恋敵がいたり、ただそれに負けない主人公たちがすごいだけか。
どうしても疑問に上がるのはなぜ主人公が彼女を選んだのかということであり、様々なサイトで語られていることでもあるが、それはもう主人公もわからないのではないかとすら思う。
恋愛ってそんなもんじゃない? と。一目惚れの描写がされているがどう好きになっていったか、なんて、本人も分かっているか謎なところだ。
性格だって自分の脳内で補完して「優しい人」と認識してしまうこともある。私は読んでいて違和感のあるシーンはあまりなかったのだが、人によってはとても不思議に思えるようだ。
そして相変わらず三島由紀夫の描写力、表現力は素晴らしい。言うまでもないのだが。
特に今回は情景描写が印象深く、島の中での話ということもあってか海に関する描写が多かった様に思う。
それがまた海の広大さを感じさせつつも登場人物の心情を反映させたものであり、その巧みさには感嘆のため息が漏れるほどだ。
さてそろそろ豊饒の海を読みたい、のだが、図書室に借りに行くのも四巻あっては分けて行かねばならないし、返却期限も考えて読まねばならないから時間に余裕がない今はなかなか行けないのである。
時間に余裕ができないものか、と思いつつ次は何を読もうかと思案する日々である。